「みんなのうた」重松清著
家族と故郷の物語。
都会での暮らしに憧れ、夢を抱いて上京するものの、夢破れて「帰郷」する20代女性が主人公。プライドが高くて人間関係が苦手な主人公が、学生時代には敬遠していた同級生と再会して、田舎の人たちとのかかわりを持ち、少しづつ変わっていきます。
夢破れて帰郷した主人公を迎える家族は、当たり前の生活を淡々と送り、誰も主人公を責めるようなことはしません。家族のありがたさ、故郷の温かさを感じることの出来る作品でした。田舎の良さも悪さも書かれています。実際に田舎暮らしをしている私にとっては、田舎の良さの方が多く書かれているなという感じは否めませんでしたが、年を重ねるにつれ、田舎の良さがわかってきているのも事実です。
主人公の家族、特に祖父母の人間としての懐の深さがとても心に沁みました。
人は良い人とのかかわりによって成長するということ、日々当たり前に生活できることがどんなに尊いことか、この作品で再確認しました。
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カドフェス ザ ベスト 2021の表紙は
「想」の一文字が印象的になっています。
裏表紙
東大を目指して上京するも、3浪の末、夢破れて帰郷したレイコさん。傷心の彼女を迎えるのは、個性豊かな森原家の面々と、弟のタカツグが店長をつとめるカラオケボックス『ウッド・フィールズ』だった。このまま田舎のしがらみに搦めとられて言い訳ばかりの人生を過ごすのかーレイコさんのヘコんだ心を、ふるさとの四季はどんなふうに迎え、包み込んでくれるのか・・・・・。文庫オリジナル感動長編!
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「舟を編む」三浦しをん著
「言葉を大事にしよう。」が読み終わった後の一番の感想でした。
対人関係が不得手な主人公「馬締光也(まじめみつや)」は本ばかりを読んで青春時代を過ごし、出版社に就職します。
馬締は読書好きなのですが自分の気持ちを言語化する能力が低く、好きな人に書いたラブレターは便せんで15枚という大作で、中身には漢文が混じるという有様。
馬締は出版社で辞書を編纂することになるのですが、辞書制作に費やした時間は15年。辞書制作を通していろいろな人と出会い、成長していきます。
馬締を取り巻く人々の人間模様も楽しいです。
変人扱いされることが多い馬締ですが、辞書制作にかける情熱は熱く、その情熱によって周囲の人は馬締を支えようと頑張りますし、馬締も自分のためだけではなく、人のために辞書を完成させたいと強く願います。
「何か一つのことに夢中になれる人は変人扱いされることも多いけれども、それ以上に人の心を打つ。」ということも教えてもらった本でした。周囲から浮くことが怖くて好きなものを好きと言えなかったり、自分の気持ちをごまかしたりすることが逆に恥ずかしいとさえ思えました。
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裏表紙
出版社の営業社員・馬締光也は、言葉への鋭いセンスを買われ、辞書編集部に引き抜かれた。新しい辞書『大渡海』の完成に向け、彼と編集部の面々の長い長い旅が始まる。定年間近のベテラン編集者。日本語研究に人生を捧げる老学者。辞書作りに情熱を持ち始める同僚たち。そして馬締がついに出会った運命の女性。不器用な人々の思いが胸を打つ本屋大賞受賞作!
解説より抜粋 平木靖成(岩波書店 辞典編集部)
辞典をもっと自由に言葉を使うために使って欲しいと常々思っている。
辞典で得た情報を踏まえて、言いたいことをきちんと伝え、かつ相手の心に響く自由な表現をするために使ってもらえないかと思うのだ。
外国では自国語の辞書は公費を投入して編纂されるが、日本では公的機関が主導して編んだ国語辞書は皆無。私企業が辞書を編纂する意義について「言葉は、言葉を生み出す心は権威や権力とは無縁な自由なものなのです。また、そうであらねばならない。」と本文中で老学者は話している。
辞典が権威や権力として言葉を縛るのではなく、道しるべでありたい。そんな辞典づくりの思いを代弁してくれているようにも感じた。
「海の見える理髪店」荻原浩著
ぎこちなくも優しい理髪店の店主とお客さんの物語。
ひとりのお客さんに対して、理髪店の店主が丁寧に髪を切り、髭を剃り、
マッサージなどを行いながら、自身の生い立ちを話ししていくストーリー。
読んでいるうちに物語の中に引き込まれていきます。
行間に理髪店での風景が浮かんできたり、店主の人生が垣間見えたりするような描写が心地良く、店主の気持ちを探りながら読み進めた作品でした。
読み終わった後には何か清々しい気持ちでした。
この本は短編小説集になっていて、タイトルの「海の見える理髪店」は植木賞受賞作です。
他にも5編の作品が書かれていて、それぞれに良い味がありますが、
私はこの本の中では断トツで「海の見える理髪店」が好きです。
他の作品では人間の皮肉な部分、意地の悪い部分も書かれていますが、どこかに救いもあります。
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本の帯
植木賞受賞受賞作
大反響35万部突破!!
人生に訪れる喪失と、ささやかな希望の光ー
心に沁みる儚く愛おしい家族の小説集。
裏表紙
店主の腕に惚れて、有名俳優や政財界の大物が通いつめたという伝説の理髪店。僕は在る想いを胸に、予約を入れて海辺の店を訪れるが・・・・・「海の見える理髪店」。独自の美意識を押し付ける画家の母から逃れて十六年。弟に促され実家に戻った私が見た母は・・・・・「いつか来た道」。人生に訪れる喪失と向き合い、希望を見出す人々を描く全6編。父と息子、母と娘など、儚く愛おしい家族小説集。植木賞受賞作。
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「風に舞い上がるビニールシート」森絵都著
男女の恋愛としてのお話だけでなく
人としての優しさ、強さ、温かさが描かれています。
大切な人との別れ、立ち直る様、
主人公に感情移入してしまって、とにかく号泣しました。
一番好きな本は?と聞かれたら
多分「風に舞い上がるビニールシート」って答えてしまうくらい
この作品を初めて読んだ時の感動が大きいです。そして、それは今も色褪せません。
他にも好きな本はたくさんありますが、自分の心に十年以上経っても中心部分に居続けてくれている作品です。
この文庫本は短編小説集になっていて
本のタイトルにもなっている「風に舞い上がるビニールシート」は植木賞を受賞した作品です。国連機関に努める主人公「里佳」は上司と恋に落ちて結婚するが、すれ違いの生活に耐えられなくなり、離婚を決意する。離婚を決めてからの二人はとても優しくて、愛し合っているのに別れを選ばなければならなかった主人公と主人公の夫の気持ちの描写が丁寧で泣かずには読めませんでした。この物語は離婚で終わりではなくて、その後のお話もあって、その後のお話の方が強く心を動かされました。
他の5編もそれぞれに心に響くものがあって
何か、人生を一歩前進したくなるような気持ちにさせてくれます。
解説で藤田香織さんが述べているのですが、同じ作者が書いたとは思えないような作品があったりします。
ですので、カテゴリー化がすごく難しくてカテゴリー3つになりました(笑)
「風に舞い上がるビニールシート」は間違いなく泣ける恋愛小説ですが、恋愛だけでなく、人を想うあたたかさが痛いくらい心に沁みました。
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本の帯
本書には「懸命に生きる」ゆえの、
狡猾さや弱さや滑稽さも、
眼を逸らすことなく描かれていて、
とても「人間臭い」。
だからこそ、心を強く揺さぶられてしまうのです。
藤田香織(解説より)
裏表紙
才能豊かなパティシエの気まぐれに奔走させられたり、犬のボランティアのために水商売のバイトをしたり、難民を保護し支援する国連機関で夫婦の愛のあり方に苦しんだり・・・・・。自分だけの価値観を守り、お金よりも大切な何かのために懸命に生きる人々を描いた6編。あたたかくて力強い、第135回植木賞受賞作。解説・藤田香織
「四十回のまばたき」重松清著
主人公「圭」は売れない翻訳作家。周囲の人々からは、「自己完結している、バランスの取れた人、一人でも生きていける人」と見られている。妻を交通事故で亡くしてしまい、悲しむものの泣くことができず、モヤモヤとしていた。だが、葬式の後に妻の不貞を知り、ますます涙は遠ざかり、自身の感情を見失うような感覚になる。
妻には「冬眠」をする妹がいた。SAD(季節性感情障害・季節性うつ病)という病名で冬になると22時間眠ってしまう、うつ状態に入る。
毎年秋から春にかけては、妻のもと、つまり主人公のもとで冬眠をしていたのだが、妻が死んだあと、主人公はこの妹と関係を持ってしまう。妹は妊娠し子供を産むというが父親は誰なのかはわからない。それでも、例年通り主人公のもとで冬眠を始める準備をし、主人公に家族になって欲しいと言う、「親子にならなくてもよいから家族になってあげて。」と。主人公はそれを引き受ける。
そんな時、主人公が翻訳した一冊の本がベストセラーになる。この本を書いたアメリカ人作家「セイウチ」と時間を共有し、圭は自分の心の穴に気が付いていく。「セイウチ」は粗暴で感情的でお酒ばかり飲んでいるような人間だが、心の穴への対処が違うだけであることにも気が付く。人間はみんな心に穴を持っている、そしてそれで良いんだと思わせてくれる。「生きていること」が何よりも素晴らしく尊く、強い。
『40回のまばたき』これは「セイウチ」が生きることが苦しいときの対処方法として伝授した言葉でした。
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本の帯は2021年幻冬舎文庫のフェアのもので
「幻冬舎文庫心を運ぶ名作100。」
裏表紙
結婚7年目の売れない翻訳家圭司は、事故で妻を亡くし、寒くなると「冬眠」する奇病を持つ義妹耀子と冬を越すことになる。多数の男と関係してきた彼女は妊娠していて、圭司を父親に任命する。妻の不貞も知り彼は混乱するが粗野なアメリカ人作家と出会い、その乱暴だが温かい言動に解き放たれていゆく。欠落感を抱えて生きるすべての人へ贈る感動長編。
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「嫌われる勇気」自己啓発の源流「アドラー」の教え 岸見一郎・古賀史健著
シンプルに生きるための教科書のような本です。
「哲学者」と「青年」という二人の登場人物が
「人はいま、この瞬間から幸せになることができる」
ということについて議論していきます。
心理学者・アドラーの教えを
分かりやすく対話形式で書かれています。
アドラーのすごいところは
「すべての悩みは対人関係の悩みである」
と言い切っているところにあると私は思います。
最終的には「幸福」について
先日紹介した「寂聴 97歳の遺言」と同じようなことが書かれてありました。
途中の内容も
アドラーの教えなのか、お釈迦様の教えなのか
という違いだけで
本質は同じだと感じています。
若い人には「嫌われる勇気」の方が読みやすいかもしれません。
「嫌われる勇気」では対人関係に焦点を絞って話を進めているからです。
今回はあとがきを一部抜粋しました。
この本で著者の方が一番言いたいことを要約したのかなと感じる文章でした。
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本の帯は☝写真の通りです。
本書あとがきより
真摯に生きることは大切なことですが、それだけでは十分ではありません。
アドラーは「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」といっていますが、どうすれば良い対人関係が築けるかを知らないと、他人の期待を満たそうとしたり、他の人を傷つけまいとして、主張したいことがあっても伝えることができず、自分が本当にしたいことを断念してしまうことがあります。
そのような人は、たしかにまわりの人からの受けはよく、彼(彼女)らを嫌う人は少ないかもしれませんが、その代わり、自分の人生を生きることができないことになるのです。
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「寂聴 九十七歳の遺言」瀬戸内寂聴著
インタビューを基に加筆、構成された語り下ろし作品。
一言でこの本を説明するのであれば、
「瀬戸内寂聴さんの人生の総まとめのようなエッセイ」。
とても分かりやすい言葉で
「愛」「孤独」「生きること」「死ぬこと」
について寂聴さんの随想が綴られています。
寂聴さんは小説家であり、尼僧さんでもあるので
ところどころでお釈迦様の教えも出てきます。
このお釈迦様の教えも、寂聴さんがかみ砕いて説明してくれているので
お説教らしくなく、すーっと心の中に落ちていきます。
人生の折り返しでこの本に出合えてよかったと思います。
もっと早くに出会っていたら、とも思いましたが
それはそれで、心に響くものが違ったのかなとも思います。
色々な経験をして、後悔があるからこそ、この本が心の救いになりました。
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本のそで
生きる幸せ、死ぬ喜びー
かけがえのないあなたへ贈る
寂聴九十七歳からの「遺言」
愛する人との別れ、誰も手を差し伸べられない孤独、
突然襲ってくる理不尽な不幸、そして老いと死。
九十七歳の今だからこそ、答えを残しておきたい。
あなたはその一言一句をどう心に刻むでしょう。
大丈夫。いかなる闇にも、必ず光は差します。
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